いつかの旅:ヴィエリチカの大八車
ポーランド・クラコフ郊外、ヴィエリチカ。ここの地下300mに、世界遺産に指定されている岩塩坑がある。ある夏、私はここにいた。地下世界に延々と広がる、想像を絶するような光景の数々をひとまわり目の当たりにしたあと、付属の博物館を見学した。追加料金がかかるわけでもないのに参加者は私一人で、ガイドの方が丁寧に説明して下さった。
その途中でのこと。ヴィエリチカは、大規模にはすでに操業していないものの、おみやげ用などのために少しの採掘を継続している。博物館の見学中、左のほうから「ガラガラ…ゴロゴロ…」という音が響いてきた。そこには一般客は立ち入り禁止の通路。人と大八車の姿が暗がりのなかから現れ、私達の前で停止した。
そのなかには山盛りの岩塩。堀ってきたばかりだという。削れば普通に食用にも使えるらしい。坑夫の男性は、そのひとつを手にとって私に差し出してきた。「ギヴ、ギヴ」と言っている。もらってもいいの?
覚えてきた数少ないポーランド語で「ジェンクイエ」ありがとうと言ったら、男性は二カッとして、また大八車を押して、また別の道をガラガラと去っていった。
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